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〜*×罪に咲く花×*〜
『(こんな所に居たんですか)』
浜辺に譲と座っているを、弁慶は見ていた。
遠く、落ちていく夕日に目を細めながら、直ぐ隣に座を据える大きな岩に手を置いて、身を隠すように立っていたが。
宿へ引き返そうと立ち上がった二人に、弁慶はおもむろに近づいた。
『さん、ちょっといいですか?』
そういって微笑みながら、弁慶は手を差し出した。
その手の意味がわからず、目をしばたかせながらは弁慶の手を見つめた。
そんな僅かの間に、弁慶は譲を目で威嚇した。
実際に口には出していないものの、その目は明らかに上から物を言っている。
『(さんと2人きりで話がしたいので、先に帰っていて下さい)』
『(えっ?!もう夕暮れですよ?こんな時間に一体……)』
『(荒事で慣らしている僕に不満でも?/にっこり)』
『(…………っιιι/滝汗;)』
あくまでも、目での会話である。
譲が身を引いたのを確認すると、弁慶はの手を取った。
が、戸惑いつつ譲を見ようとすると、早くも宿へと歩き出していた。
『先輩!俺、先に戻ってますから!』
振り返って一言。
逃げるように去って行く譲に、はおかしいな?と思いつつ…
既に、先程からそれ以上に気になるオーラを発していた弁慶を、振り返らずにはいられなかった。
しかし、いざ振り返ってみると、さっきの笑顔とは一転して、切ない横顔がそこにはあった。
完全に海に吸い込まれていく夕日を見つめて、何も言葉を発しない。
暫くはも同じように夕日を見つめていたが、完全に沈みきってしまうと、辺りが驚くほど暗くなった。
この世界に、街灯は無い。
電気のない浜辺がこんなに暗いものだと、初めて知った。
を振り向く事はなく、弁慶は静かに語りかけた。
『座りましょうか…』
それを聞いて、はその場に座ろうとしたが瞬間、下ろした筈の腰が浮いた。
しゅっと、前で結ばれていた紐を解いて、弁慶は素早く羽織っていたものを脱いだ。
引き寄せられたは弁慶の胸に倒れ掛かり、咄嗟の出来事に反応を示す余裕もない。
羽織をの背に回して、包み込むと、弁慶はやっとと視線を合わせて微笑んだ。
『これを下に引いて下さい。綺麗な着物が台無しになってしまいますから』
穏やかに微笑んで、先程のオーラなど微塵も見せずに、の腰を抱いた。
顔を真っ赤にしながら、俯いてしまおうとしたが、どうにも目が逸らせない。
「えっと…えーっと…ッ///ι」
やっとの思いで声を発したが、すっかり動揺していて、言葉にならない。
その様子を楽しむように、弁慶はにこにこしながら見つめている。
は頭で必死に言葉を整理しながら、消え入りそうな声で訴えた。
「あ、あのっ…弁慶さん……!///」
『はい?(にこにこ』
「座れないんですけど…ッ///」
『あぁ…これはすみませんでした(にっこり』
特に悪びれた様子もなく、後ろに回された手を離した。
はぎこちなく弁慶から離れると、力なくその場に座り込む。
その隣に、鋭く目を光らせて座った。
どうやら、先程の状態に戻ったらしい。
少し落ち着いてきたのか、は現状を冷静に分析して、慌てて言った。
「これじゃあ、弁慶さんの服、汚れちゃう…」
立とうとするの肩を掴んで、弁慶は言った。
『いいんですよ。それにもう座ってしまってますから』
再び、沈黙が流れた。
けれど、さっきとはどこか違う。
立とうとした際に、体の横に着かれたまま、そこにあったの手。
その上にしっかりと乗せられた、弁慶の手。
包み込むような優しさを感じさせる、その手を見たあと、は弁慶の横顔を見上げた。
波音が、手から伝わってくる弁慶の鼓動と合わせる様に、静かに響いている。
弁慶は、水平線に輝く星に視線を向けたまま、溜息をついた。
その様子を案じて、が声を掛けようとしたとき、添えられた手に力がはいった事に気付く。
『…駄目ですね』
不意に、弁慶が口を開いた。
表情には出していないけれど、酷い落ち込みを感じさせる口調に、心底ドキッとした。
何が駄目なのか、問い返す事もできない。
ただひたすらに、話し始めるのを待つだけだ。
弁慶がそうするように、も星を見つめた。
『どうして、こんなに恐くなるんでしょうね』
自嘲気味に言ったセリフに、手に一層の力を込めた。
は、はっとして弁慶を振り返った。
弁慶はこちらを見ないけれど。
は真剣な眼差しで、横顔を見つめた。
『譲と貴女が旧知の仲だという事は、わかりきっています』
唇を噛んで、少しだけ俯いた。
瞳を閉じの手を握って、続ける。
『僕の犯してきた多くの罪が、貴女と僕を繋ぎとめるものを断ち切ってしまうのではないかと、今でも不安になるんです』
その言葉が何を意味しているのか、にはわかっていた。
弁慶の感情が、自分の行為によってかき乱されたと言う事。
…例えそれが、自分には何気ない行為だとしても。
『すみません。貴女に悪気がないのはわかっているんですけどね』
強く握られたの手は、今度は柔らかく包み込むように、両手をあわせて胸の前で束ねられた。
自分に惜しみなく注がれる優しい眼差しに、は赤面する。
嫉妬と言う感情が、自分への想いゆえに起こっている事も知っている。
だからこそ、弁慶を責められるはずもなく…
そんな所にも、どこか惹かれている自分がいる事にも気付いている。
ただ、それも罪だと思っている弁慶に対しては、どんな言葉で自分の気持ちを伝えるべきかと考えてしまう。
“罪”という意識に対して、弁慶は特に敏感だ。
自分のする事が許されない事だと思っても、やらなければならない時もある。
非情な決断も、幾度となく下してきた。
全ては作戦のため、勝利のため。
けれど、その行動を取った自分を、彼は許してはいないのだった。
…どんな理由があろうとも。
それを知ったうえで、は弁慶の事が好きだった。
許すも許さないもない。
好きだと言う気持ちだけで、罪も全て弁慶なのだから。
そう…包み込んでしまう程の想い。
ふと、思いついたように、は笑顔になって少し照れくさそうに言った。
「弁慶さん、ちょっと後ろ向いてもらえますか?」
その場に座ったまま、名残惜しそうにの手を離すと、背を向けた。
『こう、ですか…?』
の思う事がわからない、という様子でを振り返ろうとした時。
がふわりと弁慶の背に抱きついた。
一瞬、弁慶は目を見開くものの、その暖かさに瞼を伏せた。
「私、何も責めたりしませんから…」
直ぐ近くにある弁慶の髪に、頬を埋める様にして、照れたまま言った。
「…私、弁慶さんしか好きになったりしません」
自分で言った言葉に、は動揺してしまった。
セリフは勿論だったが、何より、弁慶の反応が何もない事と、その沈黙に煽られた。
恥かしさでいっぱいになって、が黙り込むと、弁慶は回された手に触れた。
『貴女は…僕のどんな罪も許してくれるんですか?』
微かに、震えている様に聞こえた。
は顔を熱くしたままだったが、しっかりと頷いた。
その言葉に小さく本当に?と、聞き返す弁慶に、はもう一度頷く。
その返答を確認すると、弁慶は含んだような笑みを漏らした。
無論、には見えていない。
次の瞬間、今までの口調が嘘のように、明るい声で弁慶は言った。
『実は僕、怒ってもいるんですよ(にっこり』
「…ぇっ?」
弁慶の体の正面に回された腕の、左手だけが強く引かれた。
「?!!」
柔らかい砂の上に、背中から倒れこんで、その衝撃に目をつぶった。
次に目を開いた時には、直ぐ近くに弁慶の顔…
『僕を怒らせるなんて、困った人ですね(にっこり』
恐いくらいの微笑みで、を見下ろしている。
あまりに突然の事に…そしてこの状況に、の顔は熱でも出たのではないかと思う程だ。
言葉も出ないまま、弁慶の目を見つめる。
動けないでいるに、弁慶はどんどん顔を寄せた。
近づいてくる、と思いきや、弁慶の唇はの頬を掠めて、耳元へ。
そして、余裕が伺える表情から、とんでもない言葉が飛び出した。
吐息を含んだ言葉が、耳にかかる。
『
明日は寝不足になってしまいますね…
』
「なっ……!///」
その言葉に、赤面したまま絶句して、は口をパクパクさせた。
弁慶はそ知らぬ顔で立ち上がると、に手を差し出して留めをさした。
『折角、貴女の方からお誘い下さったのですから…遠慮しても申し訳無いですし(にこにこ』
「私は、そんなつもりは…」
『おや。そんなって、どんなつもりですか?』
「〜〜〜〜〜〜っ///」
腰が抜けてしまったのか、立てないの手を引いて立たせながら、弁慶は呟いた。
『本当に困った人ですね…』
をどうしようもなく愛しく想ってしまう事に、弁慶は歯止めをかけられなくなっていた。
そして、無意識にが自分の感情を増幅させる事に、苦笑した。
罪が罪でなくなる事を望みつつ…
それでもこの想いが罪なのならば、この罪だけはいつまでも甘く抱いていたいと、心から願った。
…例え、どんなに今までの罪が許せないままだとしても。
〜了〜
@後書き@
当サイトリニュ1周年企画★
第一弾は、遙かの夢小説って事で♪
…しかし、なぜ弁慶なんでしょう?←知るかι
よくわからないんですけど、某友人の一言を思い出して、ふと書きたくなりました。
ただそれだけなんですけどιιι
ちょっとキャラがわかりずらい…というか、まとまってないですかね?ι
自分でも、収拾つかなくなりました(爆
弁慶=策士としか考えないで書きました。
…ってか、ヤツは策士だろうッ?!(開き直り
シリアス書きたいんだか、ギャグが書きたいんだか、まったくわからなくなりました。
もうその時点でアウトですね、これ…(死
他の作品でリベンジするので、これはこれで勘弁して下さい!!!(平謝りッ
ちなみに、弁慶さんがちゃんの耳元で言った言葉は…ご想像にお任せしますv
何でもいいんですが、例えばこんな感じ…というのは、転がれば見られます(笑
(2005.01.07・作成)
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